2024年2月9日の政府方針によって、2027年から新たな制度「育成就労」が導入されることが決定しました。同時に、技能実習制度は廃止され、特定技能制度は改正されます。
本格的に開始されるまでに少し期間がありますが、現段階で検討されている内容だけでも、外国人労働者や日本企業にとってメリットになることがわかります。
そこで今回は、育成就労についてどんな制度なのか情報をまとめてみました。特定技能制度の改正についても触れていますので、ぜひ参加してみてください。
育成就労の完全移行は2030年
育成就労とは、技能実習制度が廃止され、新たに導入される外国人雇用の制度です。2014年3月15日に閣議決定し、本格的に開始されるのは2027年、完全移行は2030年頃になる見とおしとなっています。
また、従来の制度が国際貢献人材育成を目的としていたのに対し、新制度は人材確保+人材育成が目的になります。さらに、3年間の育成期間で特定技能1号の水準に達するよう育成が進められます。
ここでは、育成就労が導入される背景と受け入れ対象分野・職種、特定技能制度との関係などについて解説します。
導入される背景
従来の技能実習制度には、多くの問題点がありました。たとえば、キャリアパスの不明瞭さや不十分な権利保護、不適正な管理などです。
キャリアパスが不明瞭なことで、技能実習生のキャリアアップが見えにくくなります。それだけでなく、技能実習終了後は帰国するのが原則となっているため、長期的なキャリア形成がむずかしいです。転籍が認められず「やむを得ない事情」の基準がわかりにくいのも大きな問題点でしょう。
育成就労は、これらを改正するために導入された制度です。外国人労働者のキャリア形成とスキルアップをサポートすることを目的としているので、長期雇用も叶いやすく、外国人労働者と日本企業が安心して働ける環境を提供してくれます。
また、技能実習制度に多かったさまざまな悪用事例も、新制度によって見直されます。
受け入れ対象分野・職種
育成就労が導入されることが決定された当初、非専門的分野に位置づけされていました。しかし、現在は育成期間を修了すると特定技能1号への移行が可能になり、対象産業分野のなかから一部が指定される見込みです。
対象となる産業分野については、主に建設・介護・農業などが挙げられます。特定の職種を対象にすることで外国人労働者がスキルを身につけ、日本で活用・向上しやすくなります。また同時に、これらの分野での人手不足も緩和でき、専門的な研修を受けると資格認定も取得できます。
さらに「労働者派遣等育成就労産業分野」が設けられる可能性もあり、このなかには農業や漁業などが含まれます。
特定技能制度との関係
特定技能制度は、産業分野で一定の専門・技能を有している外国人労働者を受け入れる制度です。育成就労と似ていますが、それぞれ目的は異なります。しかしどちらも補完的な役割を持っており、労働者のキャリア形成とスキルアップを支援するほか、日本企業の人手不足の解消にもつながります。
たとえば、特定技能制度の「目的」は産業分野で外国人労働者の補充を行うのに対し、育成就労は技能実習生のキャリアアップと技能育成になります。「対象分野」も、建設・介護・農業を含む14の指定分野に対し、幅広い分野が対象になるといわれています。とくに習得した技能を発展させるには、育成就労は大きなメリットになるでしょう。
このように、2つの制度は外国人労働者をサポートする点は同じですが、対象となる分野・職種などは異なります。また、特定技能制度に関しても基本方針および分野別運用方針が改正されています。
受け入れができなくなる場合の対策
一方で、育成就労が導入されることで受け入れができなくなる分野も出てきます。たとえば、お店のバックヤードで加工業務を行う場合、技能実習制度では職種や作業の観点で受けられていました。しかし新制度は、お店によっては産業分野に該当しないため、各制度の対象にならず、受け入れが困難になる場合があります。
わかりやすいのがスーパーマーケットです。育成就労では小売業であり、飲食料品製造には含まれません。このほか、自動車に用いるプラスチック形成やゴム製品製造も、移行できないといわれています。
こういった問題に対応すべく、2024年3月29日の閣議決定では、受け入れられる分野(工業製品製造業・飲食料品製造業・造船/舶用工業)が拡大されました。
育成就労のメリット
育成就労が本格的にはじまるのは2027年からですが、現段階で検討されている内容を見ても、外国人労働者・日本企業にとって大きなメリットになることがわかります。
ここでは、とくにメリットになる点を2つ紹介します。
外国人のキャリア形成と長期雇用
新制度は在留資格の移行がスムーズになるので、同じ職種での長期雇用が可能になります。長期雇用が可能になるということは、キャリア形成もつながります。そのため、外国人労働者のスキルアップも期待できるでしょう。
日本語能力のある外国人の雇用
さらに、一定の日本語能力を有していることが条件になるため、実習中のコミュニケーションに問題が生じる心配がありません。「日本語能力試験N5等」や相当の日本語講習を受けるなど、日本語能力が上がるような仕組みが検討されているのもメリットです。
育成就労先の変更が容易
「やむを得ない事情」や「本人の希望」で育成就労先を変更することができます。ただし、本人の希望で変更する場合は、一定期間の就労経験がなければいけません。
ここでは、転籍の範囲拡大と要件・手続き、補償制度について解説します。
範囲の拡大
たとえば、人権侵害などの法令違反や契約内容と実態に一定の相違などがあった場合、転籍が認められる可能性があります。しかし一方で、受け入れる企業側にも影響が出るため、労働条件通知書の提示や説明内容を記録するなど、企業にとってマイナスにならないように実務を進めていくことも大切です。
技能実習制度でも契約内容と異なる場合の転籍は認められていましたが、新制度はさらに範囲が広がり手続きも柔軟になっています。
要件と手続き
ただし、転籍先が以前働いていた職種と異なる場合、原則として転籍は認められていません。あくまで従前と同じ職種であることが転籍を受け入れる要件になります。また、就労するには適正審査が実施され、不適正と見なされた場合も就労はむずかしくなる可能性があります。
手続きは、外国人労働者本人が育成就労機構・管理支援機関・育成就労実施者に申し出を行います。受け入れ機関は申し出を相互通知し、万が一違反した場合は罰則が科されます。そのあと、管理支援機関が雇用契約成立のあっせんを行い、育成就労計画の認定申請を行うことになります。
補償制度・支援
転籍が増えることで受け入れ機関は人材流出などの懸念が生じるため、補償制度を導入することで安全性を保つことができます。補償制度は、転籍前の企業に対して使用でき、受け入れ機関が負担した初期費用などが補償されます。同時に、過度な引き抜きを防ぐための取り組みも分野別の協議会にて促進されることになります。
一方で支援については、外国人育成就労機構が主導になり、転籍の仲介状況などの情報を把握するための再策定と審査が行われます。機構実施職業紹介事業に関しても、当分は民間の事業者は関与できないようになっており、不法就労活動の取り締まりも検討されています。
まとめ
2027年に開始される「育成就労」について、特定技能制度の改正と併せて紹介しました。育成就労が本格的に導入されると、技能実習制度での多くの問題点が改善されるだけでなく、外国人労働者のキャリア形成やスキルアップにもつながるといわれています。また労働市場の透明性も高まるため、日本企業にとってもメリットになります。
ただし、外国人労働者は一定の日本語能力の取得が要件になるので、日本語での日常会話レベルのコミュニケーションが求められるほか、日本語能力A1相当以上の試験に合格もしくは日本語講習を受講する必要があります。
しかし、育成就労が導入されると、技能実習制度のように劣悪な労働条件で働くことは軽減されるでしょう。