
外国人労働者の受け入れを拡大する制度として注目されている「特定技能制度」。違反すれば、受け入れ企業だけではなく派遣会社にまで行政処分が下されるリスクもあります。この記事では、特定技能外国人の派遣が例外的に認められるケースから、派遣雇用に求められる条件、派遣が認められていない業種についてまで制度の全体像を解説します。
例外的に派遣が認められる分野とその背景
特定技能の在留資格をもつ外国人労働者は、原則として「直接雇用」が求められます。これは、日本の入国管理制度において、労働環境の安定性や責任の所在を明確にするための措置です。
しかし、すべての分野で例外なく直接雇用が義務付けられているわけではありません。実は、農業と漁業の2分野に限り、特定技能外国人の「派遣雇用」が例外的に認められています。
これは、この2分野がもつ産業構造上の特性に由来しています。農業も漁業も、季節による繁忙期と閑散期の差が非常に大きく、年間を通じて同一の労働力を必要とするとは限りません。
たとえば、農業では収穫期に集中して多くの人手が必要となり、漁業でも水揚げ量や海の状況によって作業量が大きく変動します。これらの分野では、ピーク時のみ集中的に労働力を補うため、柔軟な雇用形態が求められるのです。
また、こうした分野は地域によって作業の時期が異なるため、派遣によって人材を必要な場所に移動させることが、産業全体の効率化や安定供給にもつながります。このような背景から、政府は農業と漁業に限って、一定の条件下での派遣雇用を容認しています。
派遣雇用の条件:法令遵守・離職歴・行方不明者対応とは
農業および漁業分野で特定技能外国人を派遣という形で受け入れるためには、いくつかの厳格な条件を満たす必要があります。これらは制度の趣旨である「適正な人材受け入れ」と「外国人の人権保護」を両立するために設けられており、ひとつでも欠ければ派遣は許可されません。
第一に、受け入れ企業および派遣元は、労働関係法令、社会保険法令、租税法令といった日本の基本的な法制度を遵守していなければなりません。社会保険料の未納や労働時間の違法な管理があるような企業では、外国人の派遣は認められません。
さらに重要なのが、過去1年以内の「離職歴」です。具体的には、特定技能外国人と同じ職種・業務に従事していた労働者を、経営上の都合などによって非自発的に退職させていないことが求められます。
これは、日本人労働者の雇用機会を守るための措置です。特定技能制度はあくまで「人手不足の補完」のために設けられており、既存の労働者を解雇して外国人で置き換えるような行為は制度の趣旨に反します。
また、受け入れ企業や派遣元が過去1年以内に、外国人労働者の「行方不明者」を出していないことも条件のひとつです。これは、実質的に人権侵害につながるような劣悪な労働環境が存在していたり、適切な管理がされていない企業に対して、制度の利用を制限するための規定です。
その他、刑罰法令違反による罰則を受けたことがある場合や、行政からの指導歴がある場合も、派遣の許可が下りない可能性があります。これらの条件はすべて「派遣元」「派遣先」両方に適用されるため、制度を利用する際には細心の注意を払う必要があります。
派遣できない業種一覧と直接雇用の重要性
農業と漁業以外の分野においては、たとえ人手不足であっても、派遣という形での雇用は原則として認められていません。これらの分野では、特定技能外国人を雇用する際には、必ず「直接雇用」でなければなりません。
派遣が認められていないおもな業種としては、以下のような分野が挙げられます。介護、ビルクリーニング、素形材産業、産業機械製造業、電気・電子情報関連産業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、飲食料品製造業、外食業などです。
これらの業種では、業務内容が多岐にわたるうえ、長期的な人材育成が必要とされるケースが多いため、継続的な雇用関係を前提とする直接雇用が適切と判断されています。また、介護や宿泊、外食などの分野では、日本語能力や利用者との信頼関係が不可欠であり、短期的・断続的な雇用では対応しきれないという実情もあります。
もし、これらの分野で派遣という形で外国人を就労させた場合、法令違反として重大な処分を受ける可能性があります。入国管理局からの指導や、悪質な場合には在留資格の取消や業務停止命令につながるケースもあるため、十分な理解が必要です。
直接雇用であれば、労働者と企業の間に安定した雇用関係が築かれ、教育や定着支援も行いやすくなります。特定技能制度は、単なる労働力の供給源としてではなく、将来的な人材育成や地域社会との共生を視野に入れた制度であることを忘れてはなりません。
まとめ
特定技能外国人の派遣雇用には、農業・漁業という限られた分野でのみ、厳格な条件のもとでの例外が設けられています。それ以外の分野においては、直接雇用が原則であり、派遣という形態は認められていません。制度の誤った理解や、不注意による法令違反は、企業の信用を大きく損ねるだけではなく、外国人労働者自身のキャリアや生活にも深刻な影響を及ぼします。制度を活用する際には、該当する分野かどうか、派遣条件をすべて満たしているかを必ず確認し、適正な雇用体制を整えることが求められます。人手不足に悩む業界にとって、特定技能制度は有効な手段ですが、それは制度の趣旨を正しく理解し、責任ある運用があってこそ活きるものです。国際的な人材活用の第一歩として、まずは正しい知識を身につけることから始めましょう。