特定技能人材を採用する際、人材紹介会社を利用すると紹介手数料が発生するのは当然ですが、実際にはそれだけで終わりではありません。入社後の定着支援や生活面でのフォロー体制など、多くの企業が想定していない「隠れコスト」が存在します。本記事では、特定技能人材紹介で見落とされがちなコストの実態を解説します。
紹介手数料以外に発生する採用関連コスト
特定技能人材の採用において、企業が最初に意識するのは紹介会社へ支払う手数料です。しかし、実際には採用決定から受け入れ準備に至るまでの間に、多様な費用が発生することになります。ここでは採用段階で見落とされやすいコストの種類を整理してみます。
ビザ申請や行政書類の手続き費用
外国籍人材を雇用するためには、在留資格の認定申請や更新といった手続きが不可欠となります。これらの手続きは専門的な知識や法的理解をともなうため、社内で完結させるのは難しく、行政書士や代行サービスに依頼するケースが一般的です。その場合、申請書類の作成や提出、補足説明などに関わる追加費用が発生し、1件あたり数万円から十数万円に及ぶこともあります。
また、紹介会社がビザ取得のサポートを一部プランに含めている場合もあれば、基本手数料とは別に請求される場合も少なくありません。とくに、更新手続きが数年ごとに繰り返し必要になる点も見落とされがちです。企業としては、初回の採用時だけでなく長期的な更新にかかるコストも視野に入れておくことが重要であり、契約前の段階で費用の有無や範囲を丁寧に確認しておくことが、予算管理の面でも欠かせない対策と言えるでしょう。
採用にともなう渡航費や移動にかかる費用
現地からの渡航や日本国内での移動費用は、多くの場合企業側が負担します。航空券代に加えて、空港からの送迎や地方での移動コストが加わることもあり、採用人数が増えるほど企業の負担は大きくなります。
受け入れ準備に関わる教育・研修費用
日本語研修や安全教育など、入社前に行う準備段階の研修費用も隠れコストのひとつです。特定技能は即戦力が期待されますが、業務に適応するための基礎研修や生活ルールの説明には時間と費用がかかります。
入社後に生じる生活支援や定着維持のコスト
採用後の隠れコストで最も大きいのは、実際に人材が生活を始めてから必要になる支援費用です。定着率を高めるためには、単に仕事を用意するだけでは不十分で、生活全般をサポートする体制が不可欠となります。
住居確保や家具家電の初期費用
外国人材が来日してすぐに生活できるようにするためには、住居の契約費用や敷金・礼金、さらに家具や家電の購入費が必要となります。これらは企業が立て替える場合も多く、想定以上の支出となることがあります。
生活オリエンテーションや地域サポート費用
生活に関する基本ルールや地域でのマナーを教えるためのオリエンテーションも欠かせません。日本語での説明だけでなく、母国語の通訳を入れる場合にはさらに費用がかかります。地域社会との円滑な関係を築くためには、こうした支援が重要になります。
定着支援としての通訳や相談窓口の維持費用
入社後に業務や生活面で困った際に相談できる窓口を設けることは、離職防止に直結します。通訳者や担当スタッフを確保するための費用は継続的に発生し、長期的に考えれば決して小さな負担ではありません。
長期的な雇用運用で発生する追加コストの実態
採用直後だけでなく、長期的な雇用を続ける中でも新たな費用が発生していきます。特定技能制度は在留資格の更新やスキル評価試験など、継続的な対応が必要となるため、運用面での隠れコストが生まれやすいのです。
在留資格更新や試験受験の費用
特定技能人材は定期的に在留資格の更新を行う必要があり、その際には申請料や専門家への依頼費用がかかります。また、スキル評価試験や日本語能力試験の受験費用を企業が負担する場合もあり、想定外の出費につながります。
労務管理や書類作成にかかる時間と人件費
外国人材の雇用管理には、雇用契約や労働時間の把握、社会保険の手続きなど多くの業務がともないます。これらは人事担当者の負担を増やし、間接的な人件費として企業に影響を及ぼします。
退職や転職時の費用負担リスク
人材が退職する際には、新たな人材を採用するために再度紹介会社へ依頼する必要があり、同様の手数料が発生します。また、住居の原状回復費用や未払い分の光熱費を肩代わりするリスクもあるため、長期的なコスト意識が求められます。
まとめ
特定技能人材の採用は、単に紹介手数料を支払えば済むものではなく、受け入れから定着、さらには長期的な運用に至るまで多くの隠れコストが発生します。ビザ申請や渡航費、住居の準備、生活支援、在留資格更新や労務管理に至るまで、企業が負担するべき領域は幅広く存在します。こうしたコストをあらかじめ理解しておかないと、採用後に予算が逼迫し、人材が定着せずに離職率が高まる可能性があるのです。したがって、企業は紹介会社との契約時に費用の範囲を正確に確認するとともに、採用から退職に至るまでの全体的なコストを見据えて計画を立てることが重要です。隠れコストを把握したうえで戦略的に採用を進めることで、持続的な人材活用につなげることができるでしょう。